【感想文】④「 風燭のイデア」に今見せてもらっていることについて(雨宮天「Ten to Bluer」より)


雨宮天さんの4th アルバム『Ten to Bluer』を聴いて、今見えてるコトについて。

 

『私はライブでは曲ごとの世界観を可視化したいんですよ。』

『それぞれの曲を可視化するようなステージにしたい。』

雨宮天「PARADOX」インタビュー|ポップに突き抜けた新境地の10thシングル - 音楽ナタリー 特集・インタビュー:取材・文 / 須藤輝)

 

と自身のライブパフォーマンスについて語っている雨宮さん。

 

「それならば」と、雨宮さんの『可視化』が届けられる前に自分の心を震わせたものを言語化しておきたいなと。

      

まだそのお弁当箱に押し込めるのは早いなあということ、ライブの可視化と和えたいなあということはカットしつつ、以上の二点をベースに、コトコトと煮込んでいければなと。

 

ツアーまでにたくさん聴いて、これまでの生活で感じてきた感情を縒り合わせながら、また新たな感情を織り繕ってみたいなと。

 

今回は、トラック08「風燭のイデアについて。

ぽやぽや考えすぎちゃって筆がいつも遅いので、今回は小分けのパウチに。


08. 風燭のイデア

08. 風燭のイデア

作詞・作曲:雨宮 天 編曲:宮永治郎

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雨宮さんが作詞作曲された、和ロック曲の『風燭のイデア』。

  

コロナ禍に入って以降、オンラインのリリースイベントや生配信で青き民のコメントをリアルタイムで拾える機会が増えまして。そこで「今後、雨宮に歌ってほしい曲は?」「作ってほしい曲は?」と質問するたびに、毎回「和ロック」という答えが返ってきていたんです。それを、ついに形にするときが来たなと。何しろアルバムタイトルで「to Bluer」と言っているので、やるなら今しかない。

(雨宮天「Ten to Bluer」インタビュー|“好き”を追求した先にたどり着いた、濃厚な青の世界)

 

というお話をされていましたね。

 

雨宮さんの『和ロック』が聴きたくて、オンラインリリースイベントでよく友人たちと「和ロック!!!」と答えあっていたので、こういう風に届けてもらえてとても嬉しいです。

 

この曲の制作過程についても

 

私は曲を作るとき、知識が乏しいので、まずは勉強から入るんですよ。例えばブルースだったらブルーノートスケールを勉強するところから始めますし、同じように和ロックも和風のヨナ抜き音階を勉強するところから始めていて。音階を勉強したあとは、その音階が実際にどういう使われ方をしているのかを知るために、ひたすらいろんな曲を聴いてインプットをするんです。作詞にしても、「風燭のイデア」は今までとは違った雰囲気にしたかったし、和ロックだから和風の言葉を入れたいと思って、百人一首で和歌を勉強しました。

(雨宮天「Ten to Bluer」インタビュー|“好き”を追求した先にたどり着いた、濃厚な青の世界)

 

とも雨宮さんがお話しされていて。

 

『BLUE BLUES』が類されるブルースや、『ロンリーナイト・ディスコティック』のようなジャズロック。

『This hope』のエモい王道ロックのコード進行、ヒーローアニメのアニソンをイメージした『マリアに乾杯』や演歌調の『初紅葉』に至るまで。

 

どれも雨宮さんが作詞作曲された楽曲ですけれど、どの曲たちのインタビューで共通してお話しされていたのが「しっかり勉強した」というお話で、本当にご多忙の中でのその作業って途轍もない時間と労力の蓄積だと思いますし、向き合い続け形にするお姿は本当に尊敬したいところだなあと思うのです。

 

冷静に、『歌謡曲』に『ブルース』、『ロック』に『ジャズ』や『演歌』、『和ロック』まで作れちゃう声優ってもう雨宮さんくらいだと思うし、そういうことができるアーティストさんは数多いらっしゃるとは言え、それらの曲を『声優として歌う』ことで味付けができるのって本当に雨宮さんくらいで。

 

唯一無二すぎるんですよ、この人。

 

『Skyreach』からはじまったアーティスト活動でしたが、こんなところまで来てしまったのすごく勝手に誇らしいですし、もっと高みを目指して人間らしく衝き進まれていかれる姿には高揚感が募りますし。

 

そんなお姿の中にもしっかりこちらを受け止めてくれている眼差しもあって、本当にこんな幸せな気持ちにしてくれる存在との出会いって有り難いなあって思うのです。

 

 

そんな雨宮さんが心血注いで制作されたこの曲。

詞もメロディーも、ヤバいとしか言いようないくらい、ヤバいですよね。

 

イントロからすごく和を感じる音色の入りで、一気に世界観に引き込まれるところがあって。

 

そのイントロを受けての1A。

もうここの歌詞から「雨宮さん、すごく古典文学を勉強されたんだなあ」ということが伺えるなあと思っていて。

 

古語表現を上手に活用しながら紡がれている情景がすごく綺麗なんですよね。

 

現世覆う帳

月をけぶらす長雨(ながめ)

 

ああもう最高、ここの情景描写大好き。

短い一節ですが、多くの古語的な技法が用いられているんですよ。

 

まず古語の中で「夜」と「雨」はよくセットで用いられ、『恋人を想う女性の悲哀』を表現しますよね。

 

頭に浮かんだのが、和泉式部によって詠まれた僕の大好きな句。

 

夜もすがら なにごとをかは 思ひつる

窓うつ雨の音を聞きつつ

(夜の間ずっと あなたのこと以外に何を思うというのでしょう

窓を打つ雨の音を聞きながら (和泉式部『和泉式部日記』))

 

めちゃくちゃ美しい抒情詩ですよね...。

 

続いて「月をけぶらす長雨(ながめ)」という歌詞。

これ、ヤバい、最高!!

 

ここの「長雨」という単語は掛詞になっていて、「眺め」とも意味をとることができます。

わざわざ「ながめ」とルビがうたれ歌唱されているくらいですから、そうなのでしょう。

 

現代語で「眺める」というと、「見渡す・遠くを見やる」というぐらいの意味ですが、古文でいう「眺む」は「物思いに沈んでぼんやりと見やる」という意味を持っています。

 

長く降り続く雨、ぼんやり外を眺めては物思いに沈む……なんて詩的な情景が、「ながめ」の一言で表せるわけですね

 

例として小野小町の和歌をひとつ。

 

花の色は 移りにけりな いたづらに

我が身世にふる ながめせし間に

花の色はすっかり褪せてしまったわ。むなしく日々を過ごし、

長雨をぼんやり見ながら、物思いに耽っている間に。 (『古今集』小野小町))

 

綺麗な句だ...。

 

そんでもって、雨宮さんまだまだ凝られてますよ。

「眺む」といえば「月を」なんです。昔も、現代も。

 

ちなみに、「眺む」は「詠む」という単語とも掛詞としてよく用いられます。

月を眺めては物思いに耽り日本人は多くの和歌を詠んできました。

 

日本の和歌では古来から月は、詠む人のこころをあらわす徴であったり、また憧れる人をあらわす徴として顕れてきたのです。

 

その月をぼんやりとけぶらかす、霞ませるのは「長雨」だと歌詞に紡がれていますが、これは「眺め」の意も含まれているんじゃないかと僕は解釈しています。

 

ただ単に雨が月をぼんやりと霞ませているのではなくて。

 

あなたの気配を潰していくように降りしきるこの雨の中、「あなたの心は私を離れてしまったのだろうか」という物思いに耽るほど(=眺め)、想えば想うほど私の中のあなたの姿がぼんやりと霞み、疑わしく感じてしまうのです。

 

というような心情が描写されているのかなと。

 

 「夜」と「雨」のセット表現や「長雨」と「眺め」の掛詞は和歌の中では常套句ですが、「月をけぶらす長雨」はマジで天才すぎるし、冗談抜きに、時代が時代なら古典文学の名作品になっていてもおかしくないですよこれ。

   

 

現世覆う帳

月をけぶらす長雨(ながめ)

     

ただ単に「夜の帳が降りた月夜の中を降りしきる長雨」という情景が詠まれているわけではなくて。

しとしとと降りしきる淋雨のなかで悲哀なまでに恋人を想う女性の姿とその想いの大きさを、この僅かな節の中から痛いほどに感じられるのです。

 

直後の歌詞に「飽かず今宵もまたうらぶれ」とありますが、この前半の歌詞により「心しおれ悄然としている様」がより際立って表現されているように思います。

 

めちゃくちゃこの人は相手を想っていたんだなって伝わってきますし、そりゃそれが相手に裏切られて破れたとなると「現世でこの恋、叶わぬなら、いっそ地獄で……」みたいな呪いにも似た恨み節になるって...。

 

 「うらぶれ」や「緋桜」のこぶし、趣深くて良きですね...。

 

ロングトーンとビブラートは相変わらず美しいのは言わずもがな、こぶしとか絶妙な裏声とか和ロックな曲調に合う歌い方に仕上げられてて。

 

それらが、おどろおどろしい曲の世界観をぐっと深めていますよね。

 

「袖を濡らす」という和歌表現もしっかりと盛り込まれた2Aまではまだいじらしいところがありますけど、2Bで裏切りに気付いて以降の展開が怖すぎるんですよね...(笑)

 

裏切り告げる 春の報せ

賭した愛だけ 恨みで編んだ餞 提げて

 

愛した人からの 「春の報せ」を聞いてしまった主人公が狂気に落ちるシーン。

 

「裏切り告げる」で雨宮さんが意図的に音を下げていると思うんですが、それにより暗い方への転換が際立っていて、ただことじゃない感じが演出されているなあと。

 

その雨宮さんが、

 

あまり詳しく説明するのもアレですけど、この曲は妻がいる男性を好きになった浮気相手側の視点の歌詞で、この“裏切り告げる春の報せ”のところは、「奥さんと離婚していると言っていたのに、妊娠してるじゃないの!」のゾーンなんです(笑)

 

(“青き民”への感謝の想いを込めて――。雨宮天、4thオリジナルアルバム『Ten to Bluer』、そして活動10年を迎えた今の気持ちを聞いた。)

 

と、この2Bの歌詞をお話しされていましたね。

 

「便り」や「知らせ」じゃなくて、「報せ」なのが、これまた...ですよね。

 

「あなた」からの通いもパタリと止み、音沙汰や便りもないまま、人伝に「奥方のご懐妊」を聞いてしまったんじゃないかなって解釈していて。

 

 

そっちの方が、「疾風に乗って あなたの元へゆきます」のおどろおどろしさが増す気がするし、実際に雨宮さんの歌唱も狂気を孕んでいて、噂話を聞いたままに飛び出したような姿を感じるんですよね。

 

「疾風に乗って あなたの元へゆきます」って...。

ここまでのバックボーン踏まえると、マジでこんなこと言う女、怖すぎんのよ。

 

この2Bからのメロディーの疾走感、いや、颯風感。

凄まじい激情ですよね。

 

一気に人道の坂をくだり降りて情動のままにこちらへ向かってくる感じ。

それが雨宮さんの歌唱からも間奏のメロディーからもピリピリと感じて、マジで怖い。

 

その間奏明けの落ちBメロ。

 

この身も愛も救われぬのなら

あとは悪意の巣食うままに

道を違えたその足掬い

もろともに共に転げ落ちて地獄まで

 

 

前半の「この身も愛も救われぬのなら あとは悪意の巣食うままに」の部分。

 

静かに般若の面を被るような狂気の芽生えを歌唱から感じられてマジ怖い。

でもこの曲のMVが観てぇよ、俺...。

 

 

救われぬ気持ちに巣食う悪意。


「救う」と「巣食う」、「足掬い」にも「すくい(掬う)」という音が踏まれていて、雨宮さんの遊び心を感じる箇所なんですが、そんなのほほんと楽しんでいるような場面でもないんですよね…怖いんよ、ここ。

 

「道を違えたその足掬い」から徐々に、さらに輪を掛けて増していく狂気。

闇落ちというより、闇から般若が徐々にこちらへ全速で駆けてくる感じ。

 

ここまくると「物の怪」と言った方がしっくりくるレベルですよ。

 

上手く歌唱的な技法を言い当てることができないんですが、「違え」や「足掬」の歌唱。

ここの味付けにより、より物狂いな様をハッキリと怖いまでに感じることができますよね。

 

さすが声優っていう感じの味付けだ。

 

そのまま傾れ込んだラスサビを終えてのアウトロ、決して一件落着のそぶりを見せない、狂乱のままに曲を終えていくの、なんかもう凄いっすよね...。

 

もう絶対「もろともに...」ENDじゃん...。

 

いやはや、恨み節をここまで恐ろしく仕上げられるの怖すぎるのよ...。

でもこの曲のMVが観てぇよ、俺...。

 

この曲の歌詞化、どうすんのよ...。

般若の面つけたダンサーさんとか出てきそう。

 

 

 

演歌でもいけそうな歌詞だと思うんですけれど、和ロックの歌唱だからこそ「情動による狂気なまでの疾走感」があるように受け取っていて。

 

そこに雨宮さんがこれまで声優としてアーティストとして培ってきた様々な技が散りばめられているから、その「情動」をより「狂気」として、まるでこちらに向けられているように感じさせているのかなとも感じています。

 

和ロックならばロックな歌い方にコブシを乗せたい。それはなんとしてもやりたかったことであり、1つの憧れでもあったので。ただ、めちゃくちゃ難しかったですね、コブシに説得力を与えるのが。だから作詞作曲と同じぐらい、レコーディングも大変でした。だいたい私は自分で書いた曲を歌うとき「この曲作ったの誰だよ?」と、自分で自分にキレがちなんですけど(笑)。

(雨宮天「Ten to Bluer」インタビュー|“好き”を追求した先にたどり着いた、濃厚な青の世界)

 

説得力どころじゃなかったよ...。

 

『風燭のイデア』、マジで名古典文学だった...。

 

表現技法や信条の読み取りは高校受験くらいの入試で出てもおかしくないんじゃないかなって思うし、十年前の塾講アルバイト時代にこの曲と出会ってたら、問題を作って生徒に解かせてみたいなあと思えるほど、完成度高くて。

 

えーーーー、今後も和ロック作ってほしい〜〜〜〜!!!

 

でも、エモい感じのハーモニカ曲ポップ曲も作ってほしい〜〜〜〜!!!

 

ライブ、マジで楽しみだな、『風燭のイデア』。

曲終わりに「Foo~~~!」とかい言ってる姿、全然想像できんのだけど(笑)

 

ライブまでにもうちょっと勉強したり感情メモ本見直して、引っかかり多く作った状態で可視化受け取りたいな。

 

『風燭のイデア』、めっちゃ好きです。


【次記事】:『the Game of Life



■ライブ情報

LAWSON presents 雨宮天 Live Tour 2024 “Ten to Bluer Sky”

 

詳細:https://trysail.jp/contents/712658各地プレイガイド先行受付中

 

大阪・オリックス劇場

2024年5月11日(土)17:30開場 /18:30開演

2024年5月12日(日)16:00開場 /17:00開演

 

埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール

2024年5月26日(日)17:30開場 /18:30開演

 

愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

2024年6月9日(日) 17:30開場 /18:30開演

 

東京・立川ステージガーデン

2024年6月22日(土)17:30開場 /18:30開演

2024年6月23日(日)16:00開場 /17:00開演


『うじゃの遺言帳』

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